ミスマルカ興国物語

 
 林トモアキ著「ミスマルカ興国物語」(角川スニーカー文庫)1~3巻です。剣も魔法も使えないぐうたらな王子が争いの中で国を興していくお話で、ファンタジー世界でありながら、けっこうなんでもアリな(?)世界や設定が魅力的な物語です。

世界
 ミスマルカ興国物語の世界は、「王道“系”ファンタジー」と紹介されているように、剣と魔法の世界です。魔法が使えて身体能力のずば抜けた「魔人」、さらには西域と呼ばれる未開の地に巣くう「魔物」、中世風の城に街並みと、イメージ通りのファンタジー世界をなぞっているように見えます。

 しかし、どうやら今の地球の文明が一度死滅した後の世界として描かれているらしく、旧時代の遺産としてクルマやバイクなどエンジンを積んだ乗り物が一部に登場します。製造はできないがメンテはできるといった塩梅らしく、エンジンがあったら戦争の方法も革新が起きているハズでは……とツッコミたくなりますが、これはソレ、ツッコんだら負けってやつでしょうか? 作品世界は基本的に、厳密で論理的な設定で固められているワケではなく、楽しいから登場させているだけといった、ケレン味のようなユルさが感じられます。ちなみに極東の三国として現代の日本に相当する島国が地図に登場するのですが、3巻までではほとんど出てきません。

 キャラクターの衣服もけっこうバラバラで、主人公の王子の普段着はジーンズにライダースジャケットで、ほかにも袴に長刀、スーツにコート、三角帽子に飛行ほうきとか、喜々として? いろいろ出てきます。

 物語の中心となるのはミスマルカ王国です。現代でいうロシア東部、モンゴル、中国あたりの地域が物語の舞台になっているようですが、世界観的に中国やモンゴルなどはあまり関係ないようです。ミスマルカは中央に位置する小国です。南一帯には人間種族を能力的に上回る「魔人」至上主義を掲げる帝国が勢力を拡大しており、ミスマルカは周辺諸国と連合を組んでなんとか勢力的なバランスを保っている状態です。また、この世界では西域の魔物から国土を守らなければいけない状況も、国家間の争いに影響しています。


 主人公のマヒロ王子は、更衣室ののぞきから王族なのに食堂で食事、城を脱走などなど、とにかく型破りな行動ばかりが目立つダメな王子としてまず登場しますが、強力すぎる魔人としての能力を幼少期に封印されているという側面を持ち、最終的には「実はちゃんと考えている」というタイプのキャラクターです。

 そのほか、切れると暴力的な側近の少女騎士パリエルや、メイドの格好をした冷酷な魔人エーデルワイス、さらには敵方にもなぜか美女ばかりの帝国皇女の三姉妹、中立国家で資格になっている「勇者」として、カタブツ系美人勇者やはっちゃけたシスターなど、バラエティに富んだキャラクターが登場します。あ、男のキャラクターもしっかり登場しますよ。

ポイント
 本作品で面白いと感じているのは、微妙にヌルい世界設定と、それに似つかわしくない激しい策謀が展開するところです。マヒロ王子のおバカなキャラというのは、策士としての側面を引き立てるようなもので、ひとたび作戦が回り出してからの“逆転劇”は痛快の一言に尽きます。エンジンや無線の存在など世界設定に(あえて?)ツッコミどころが残されている一方で、マヒロ王子の本当の考えや政治的な駆け引き、地政学的な戦略は説得力に満ちており、ユルい世界設定とロジカルな戦略という綺麗なコントラストを描いていると思います。
 

聖剣の刀鍛冶

 
 三浦勇雄著「聖剣の刀鍛冶(ブラックスミス)」(MF文庫J)1~3巻です。本作品はライトノベルらしい(?)ストレートなファンタジー世界の物語で、剣と魔法、各国の思惑が交錯する架空の大陸世界を舞台に、騎士の少女と刀鍛冶の少年が活躍するお話です。

世界
 普通にしろ変わっているにしろ、世界観を大事にしたい私としては、まず舞台となる世界が気になります。基本的には中世の趣きで、電気や自動車はなく、書物に石畳にお城に、といったイメージの世界でしょうか。剣と魔法のファンタジー世界と書きましたが、魔法はすこし勝手が違い、「祈祷契約」「悪魔契約」の2種類が魔法的なものとして登場します。人々の生活に根ざしているのは祈祷契約で、触媒に玉鋼を用い、空気中にある「霊体」を呪文で熱や光、治癒などのさまざまな効果に反応・変換させます。一方の悪魔契約は、人体を媒介に人外の化け物となり、超常の力を得るもの。過去の大戦で惨劇を引き起こしたことから禁忌となっており、その発動方法も非人道的なものとなっています。また、空気中に存在するという不可視の粒子「霊体」も発生原因など謎が多く、世界の生い立ちに迫るという深みのある設定を持たされています。

 剣はというと、鋳型で製造される安価なものが広がり始めており、工業の発展と同時に剣そのものの魅力・威力が衰えを見せ始めています。そんな中で作中で失われつつある技術として登場するのが「刀」と「刀鍛冶」。もちろん日本刀をモチーフにしたものですが、日本国が登場するわけではないので、本作品の世界向けにアレンジされた位置付けとなっています。モチーフと書いてますが刀の鍛錬の過程は詳細に再現されており、作品世界においては刀の材料となる玉鋼が霊的に高い能力を持ち、霊体の力を相殺する力を発現することで、鍛錬された刀が悪魔契約により生み出された人外の化け物を退ける切り札となっています。

 よりファンタジー色の強い部分では、「魔剣」の存在も大きな位置を占めていると思います。祈祷契約・悪魔契約に連なるような、並外れた力を得た謎の剣で、強力なものは人の姿を与えられているのも特徴です。強力な魔剣は変身して剣と人の姿を行き来できるのですが、当然ながら(?)剣の姿では人に使われて初めてその能力を発揮することになります。魔剣の威力や存在もまた、歴史の裏側で暗躍してきた過去を持ち、人の業、ひいては世界の謎につながっています。1巻では風の力を持つレイピアの魔剣・アリアが登場し、セシリーとともに活躍します。

 剣と祈祷・悪魔契約以外にも、世界の歴史や、過去の大戦と傷跡、現在世界の危うい均衡など、総じて世界観はしっかりと構築されていて、安心して読み進められる感じです。文化・風俗まで詳細に綴られるとなお良いのでしょうが、スピード感のある展開が優先されているのかもしれません。食事や生活習慣などはそれなりに登場します。


 さて、登場人物ですが、主人公は中立の自治都市で自衛騎士団に所属する少女、セシリー・キャンベルです。もうひとりの主人公と呼べるのは街外れで刀鍛冶をほそぼそと営む少年、ルーク・エインズワース。まぁ、どちらも少年少女ということになってますが、どちらもそれなりに自立しており、読んでいる限りは10代を意識させるような場面は多くなく、女性と男性と書くほうがしっくり来るように思います。登場人物はほかにもたくさん出てくることになりますが、この二人が軸になっていると思います。いずれのキャラクターも性格はそれなりにわかりやすく、描き分けがなされ、にぎやかな印象です。

 とりあえずセシリーは熱血系で信念を曲げないタイプです。突出した剣術や能力があるわけでもなく、作品自体が努力と挫折を繰り返して少々不器用に進んでいく彼女の成長物語と捉えることもできると思います。ルークは口数が少なく冷静な性格の人物として描かれるものの、セシリーと行動をともにすることが増えてから、徐々に変わっていくことになります。ルークは主人公のセシリーと違い、その行動・思惑の変化が外から見た変化として描かれることも多く、そういった意味で、多くを語らず捉えがたい彼の性格の変化も、子細な変化の片鱗で追いかけていくことになります。

 ルークの助手として働く少女・リサや魔剣・アリアなど、ともに行動する登場人物にもしっかりとしたバックグラウンドが与えられており、時にシリアスな側面も描かれることでほどよい緊張感となっているほか、いずれも大なり小なり世界の謎につながる要素を含んでいます。

ポイント
 本作品で最も気に入っているところは、テンポの良い流れ・展開でしょうか。グダグダな展開や小難しい説明が延々と続くようなことは無く、ささいなもめ事から大きな戦闘まで、場所や場面を変えてポンポンと進んでいき、景色の眺めからアクションシーンまで過不足なく描写され、サクサクと読み進められます。

 足りないものをあえて挙げるなら、今風な(笑)要素とでもいえばいいんでしょうか。ツンデレとかエロとかが中心軸になることは無いですし、恋愛要素については3巻までを見る限り、てんこ盛りに描写されることなく進行している(無いわけではないです)感じで、どちらかというとセシリーの正義感の方が勝っている印象で、まぁこれはこれで彼女の物語らしいとも思ったりしています。自衛騎士団内の抗争や確執といった描写は少なめなので、セシリーが所属している団体に関しては少々つかめない部分が残るかもしれません。単独行動が多いのであんまり関係ないんですけどね……。

 イラストは、内容からすると少しだけ露出度が高めというか、もうすこし保守的なイメージでもいいのかなと思いましたが、フックになるにはこれぐらいが丁度いいのかもしれません。

 4巻以降はこれまでの舞台から外に踏み出した展開も予定されているとのことで、冒険要素が多くなるのかもしれませんね。しっかりと構築された世界観で、マジメなファンタジーの物語が楽しめる作品だと思います。
 

人類は衰退しました

 
 田中ロミオ著「人類は衰退しました」(ガガガ文庫) 1~3巻を買って読んでみました(試し読みはコチラ)。兆しのようなものを求め、センスを極大にまで鋭敏化させて売り場を歩いていると気がつけば5~6冊を手にしてレジに列んでいた、ということを確信犯的に繰り返しているのですが、幸運にも、そのような裏ダンジョンでの自分探しの冒険でごく初期に手にしたのが本書でした。

 タイトルにもあるように、人類がゆるやかな衰退をはじめてから数世紀を経た地球が物語の舞台です。地球はすでに人類のものではなく、身長10cmで3頭身の「妖精さん」のもので、ひっそりと暮らす人類の中にあって妖精さんとの“調停”の任に就く女の子が主人公です。人類は衰退しているので地球上を支配できるような高度な文明もなく、雰囲気的にはおそらく19世紀あたりの感じです。情報の流通は書物が中心で、暮らしの中では最低限の電気や機器がある、という塩梅です。

 地球は妖精さんのものといっても、人類を従えているわけではなく、その未知の生態系もあって地球上に多数いると思われるものの実態は不明、という世界です。そのような世界では、調停とはつまり妖精さんと触れあって生態系なり行動様式を調べることなのですが、高度な知識や文明? を持っていると思われるものの、物事を忘れやすく、不思議で捉えどころのない妖精さんが相手故のドタバタが物語の中心となっています。

 ストーリーは、1冊を通して大きな話題があるものの、基本的によく分からない妖精さんが相手ということもあり、ストーリー的にも先の見えない展開が続き、楽しみながら読み進められました。動きのある描写も情景も簡潔で分かりやすく、難解な表現に惑わされることはありません。2巻では流れが少々クドイかな?という部分もありましたが、3巻では世界衰退のきっかけに迫るなど、徐々に世界の謎も明らかになってきています。4巻は2008年12月に発売される予定です。

 読み始めてすぐに違和感に気付いたのですが、なんというか、語り口がとても丁寧だという点です。女性が主人公ということを差し引いても、同ジャンルの一般的な作品とは違う、有り体に言うならとても優しい口調で語られています。そのほんわかした印象は登場人物や世界観そのものでもあり、この作品が穏やかな気持ちで読み進められることを表しています。斜めに見ない限り、カバーイラストとそこから受けるイメージは、そういった作品世界をよく表していると思います。固有名詞を極限まで省いていることも特徴のようですが、個人的には読んでいる中で違和感や不都合はなく、言われてみればそうかも、という感じでした。

 主人公の、少し楽観的で、打算的でもあり、男性に対して大いに人見知りで、お菓子作りが得意でといった特徴は人間味あふれる魅力的な部分であり、物語の語り口が彼女であることから、少し客観的な性格であるかのような印象も受けます。お菓子作りやお菓子類への思い入れにみられる、女性主人公の性格の描写、語り口などは、読んでいると「著者って女性だったっけ?」とか思ってしまいますが、まぁこのあたりは著者の本業に関係している(のか?)かもしれません。私にとっては、この作品が氏の初めての作品なのでちょっと驚いたのと、気に入っている部分でもあります。女性の主人公が、偏見や男性読者への媚びを排除した形で描かれる一方、妖精さんは努めて可愛らしい不思議キャラとして描かれており、世界が衰退しながらも穏やかであることを間接的に表しているようです。

 
 さて、本書を手にしたきっかけは、イラストが可愛いかったからです。メルヘンとは言わないまでも、髪や瞳などのクルクルと丸い意匠が特徴的で、それでいて媚びた感じを抑え、落ち着いた色調なのも好印象でした。すこしキャッチーなタイトルと、人類衰退後の地球というSF的テーマと妖精さんという組み合わせも、ちょっと気になったポイントでした。

 個人的にこういったジャンルの作品の買い方は、いわゆるジャケ買いのような買い方は大いにアリだと思っているので、 センスを極大にまで鋭敏化させてピンときたものを他のあらゆる一切合切のしがらみを瞬間的に捨て去って手に取るようにしています。その上で、あらすじを読んで「あ、猟奇ミステリーは今はパスかな」とか大まかなジャンルや設定で選んでいます。おかげで、家に帰ってきて改めて見ると、すでに手にした時の感覚は失われており自己嫌悪に至るようなものもあるのですが(笑)、事前のリサーチや後付けの理由よりも、冷静に考え始める前の瞬間的な脳髄判定に身をゆだね、川底から手探りで砂金を見つけるが如く、いつのまにか好みの作品に出会えていたら幸せ、というのがそもそもの発端なので、前評判なども調べず、つまり絨毯爆撃です。当然ながら、読んでみて自分に合わず、投げ出すもの出てくるわけですが、それ自体も楽しんでいるといったところでしょうか。

 他人の意見は事前に一切参考にしないのに自分はこうして外向きに感想を書くというのも困ったものですが、買うのも読むのも面白がるのもすべて、極めてポジティブな意味での自己満足のためにやっていることなので、あぁ、こうして最後に書いちゃうのも自己満足だなと思ったり。この感想文は興味を喚起できるようなものではないかもしれませんが、皆々様における素敵な1冊を求める一助となれば幸いです。