JH Audio Lola 新次元ミドル

 JH Audioの「Lola」を買ってみました。カスタムIEMとしては2010年7月に買った「UE 18 Pro」以来で、ちょうど7年ぶりになりました。

 日本での発売日の翌日にあたる6月18日にフジヤエービックで注文し、6月30日に「今から作るけど、あんたコレ、この内容でホンマにエエの?」(意訳)とフジヤ経由で確認の電話があり(笑)、8月2日になって店に商品が到着したと連絡がありました。実際の製作期間は1ヵ月弱とみられ、注文からは1ヵ月半で入手できたことになります。注文時には「納品まで3ヵ月は覚悟すべし」とおどされていましたが、カスタムアートワークなし、ロゴも無し、ボディとフタはふつーに用意されている色(T5 – Blisterine)で統一と、普通づくしなので早かったのかもしれません。

 JH Audioは初めてなので、耳の型(インプレッション)の採取は、フジヤエービックの店頭でちょうど実施されていたインプレッションサービスを、店頭での注文の直前に利用しました。前回の「UE 18 Pro」の時は須山さんで採取したので、シリコンを固めている最中に口を数回開閉する方式(今では須山式というらしい)でしたが、今回の採取ではいくつかある中からバイトブロックを選んでみました。小さい発泡スチロールでできたブロックをくわえたままにして、採取中はアゴを動かさない方式です。

 装着感ですが、バイトブロックの関係なのか、須山式で作った「UE 18 Pro」よりも全体的にタイトな印象です。一方、耳の中に入る先端の形状は、「UE 18 Pro」が平たくカットされた形状だったのに対し、「Lola」は金属のパイプも含めて丁寧に丸く仕上げられており、耳の奥で固形物が接触する感覚が減って、快適になりました。

 エージングは、以下のレビューではひとまず50時間が経過したところで最初にチェックし、70時間以降で本格的に聴いてみましたが、80~100時間ぐらいはいるかもしれません。鳴らし始めて1時間ぐらいしてから、少なくとも30時間ぐらいまでは、高音域が刺さるようにキツくなったり、潰れて色あせたようにバランスが悪くなったりして、それなりに暴れましたが、50時間弱でキツさは無くなりました。70~80時間ぐらいで高音域は存在感が戻ってきます。この頃になると中・低音域も無駄を削ぎ落としたように存在感がしっかりとしてきます。


マジカルな「D.O.M.E」、新次元のミドル

 「Lola」で注目なのは、中音域をまるごとダイナミック・ドライバーのユニットが担うことです。これを実現する技術「D.O.M.E Midrange Enclosure Technology」の仕組みや詳細な解説はほかに譲りますが、2つのダイナミック・ドライバーが対向配置された筒型のユニットからは、従来のダイナミック・ドライバーにはないレスポンスといった特性が得られているようです。

 音質的に特筆すべきなのは、この中音域が、ほかの音域と綺麗につながっており、まったく違和感を感じさせないことと、スピード感があり、繊細さもしっかりと感じさせながら、実に“実在感”を感じさせる、芯のあるディテールであることです。

 中音域でもハイライトといえるボーカルは、ふくよかさや艶とスピード感が両立し、なにかの軛から解き放たれたかのような伸びやかさ、開放感すらも感じられます。上下がバランスド・アーマチュア・ドライバーに挟まれているとはいえ、ダイナミック・ドライバーであるとかバランスド・アーマチュア・ドライバーであるとかの一面的な議論を超えた領域にあると感じられる音です。

 また、こうしたリアルさを備えながら、伴奏やほかの音域が賑やかになってもまったく埋没せず、水面に咲く花よろしく、そのディテールや輪郭を中央に捉え続けられる、という点も特筆すべき点です。比較的前面に出てくる中音域ということもありますが、不思議なまでに自然に、確実にボーカルが存在しているという感覚です。

 ほかにもドラムなら、タムタムやフロアタムの震える感触がしっかりと描き出され、ハッとさせられます。スネアでカツカツ鳴らすアレ(笑)も、木製のスティックが見えるような芯のある響きです。

 ピアノ曲なら、鍵盤の左から右まで一切の違和感なく駆け上がっていく様子に、ドライバーの方式がどうとかいうことは忘れて没頭してしまいます。繊細な力の強弱には、ピアニストが体を前後に揺らしている姿を想起させられます。グランドピアノの音というのは、実際に聞くと鋭さやドライさはあまりなく、角の丸いディテールをしていますが、そうした表現も抜群に上手いという印象です。

 管楽器も弦楽器も、中音域はとにかくライブ・サウンドというイメージです。ドラム、ベース、ギターといったバンド構成や、ジャズトリオなどは、本当に聴いていて痛快です。

 すごく単純化して表現するなら、とても生々しく、それが“音の迫力”を超えた、“演奏の迫力”につながっていると感じられる中音域です。「ミッドレンジにマジックを」という「Lola」の謳い文句は、伊達ではなかったというのが素直な感想です。

ベース調整ポッド

 低音域は「Variable Bass Output Adjustable Cable」としてステレオミニプラグの近くにあるポッドで、LRで独立して調整できます。このため一概に多い少ないは言いにくいですが、右にめいっぱい回して4時の位置にすると、最も低音が多くなり(※ユニット的には最も抵抗値が少ない素の状態)、かなりのボリューム感です。JH Audioの設立者であるJerry Harvey氏によると、2時の位置がオススメとのことですが(どっかで読んだ)、部屋の中など静かな環境では、2時の位置ならフラット過ぎずそこそこ力強さもあって、私もいい塩梅だと思いました。

 ただ、地下鉄の中など騒音が大きい環境では、2時だと少しフラットを割り込んで低音域が物足りないと感じたので、外出中に使うことが多い私は、3時の位置をひとまず定位置にしてみました。3時は「UE 18 Pro」に近い低音域のバランスで、静かな環境だと低音域が少しボリューミーで、うるさい環境だとバランスがとれます。マックスの4時はステージモニターとかのアーティスト向けでしょうか。

 まぁこの低音域調整システムは最近のJH Audioのイヤホンには搭載されているので、新しい話題ではないですが、自分が好きな曲の傾向や、よく使う環境に合わせて調整できるのは素直に嬉しいですね。

 低音域の音質については、JH Audioでもおなじみのバランスド・アーマチュア・ドライバーとはいえ、ほかのJHのイヤホンを買ったことがないのでモデル別の比較をできませんが、中音域のキャラクターがそのまま下に降りてきたような感覚です。非常に深くまで出て、無駄がなく、スピード感もあり、とても楽器的な鳴り方をするという印象です。フロアタムと同じように、バスドラムの膜の震えがそのまま聞こえるようで、「生音」を感じさせる、表情豊かな低音域です。


 高音域については、使い始めは注意が必要です。前述のように、エージングが30時間前後までは刺さるようにキツくなったり、潰れてバランスが悪くなったりと、先行きが不安になるような推移をしました。50時間を越えてキツさがとれても、今度は後ろに引っ込んで存在感が希薄になり、80時間ぐらいで前面に復帰してくるという感じでした。

 その音質ですが、中音域の揺るぎない存在感で生々しい美音、低音域の暴れる牛を巧みに御するような音という、個性に溢れたほかの帯域と比べると、キャラクター性は薄めです。どちらかというと黒子的な塩梅で、ひたすら中音域と綺麗にバランスをとり、ディテールの忠実な再現に尽くしているという印象です。決してボリューム感として不足しているわけではないですが、控えめな音をきらびやかにしたり、キツい音をうまくマスクしたりするといった加飾や演出はなく、録音に対して正確である、というのが正しいでしょう。金属音もしっかりと厚みがあり、これもやはり演奏の音とでもいうべき、軽薄でない、しっかりと芯のある音だと感じられます。

 空間表現は狭すぎず広すぎずといったところでしょうか。閉塞感は少なく、小さなライブハウスのような趣きだと思います。録音が良ければ、綺麗に扇状に配置されたり、水平に並んだりします。

 「freqphase Technology」や、独自形状のケーブルで低中高に音域を分けた4ピン構成などの、これまでの製品で搭載されてきた技術も、上記のように、音域間のつながりの良さ、正確さ、繊細さに貢献していると思います。

 これまでのJH AudioのカスタムIEMや一般的なIEMと比較してわりと違うのは、入力感度が105dB/1mWと、やや低めなところでしょうか。ボリューム位置がより高めになるはずなので、非力なシステムでは鳴らしきれないかもしれません。私は現在は、電気的な特性やパワフルさでも評価の高いChordの「Mojo」を使っています。

蛇足、ワシとJH

 個人的にあまり意識していませんでしたが、振り返ってみるとJerry Harvey氏とゆかりのある製品を辿ってきていたようです。

 「triple.fi 10 Pro」(当時の名称)を日本で発売される前に個人輸入で購入したのが2007年4月。直後に、イヤーピースが自分の耳にどうしても合わないことから、須山さんにかけこんでインプレッションをとり、カスタムイヤーピースを製作しました。

須山さんでカスタムイヤーピースを製作してもらった「triple.fi 10 Pro」(2007年)

 「UE 18 Pro」の開発にJerry Harvey氏が関わっていたかどうかは分かりませんが、UEを設立したという氏の経歴を考えれば、影響は受けていると思われます。その「UE 18 Pro」を個人輸入で購入したのは2010年7月で、当時はそもそもカスタムIEMを取り扱う国内の正規代理店はなかったと思います。すごく高額になる発注代行業者はいましたが……。「UE 18 Pro」を注文する前は、設立されたばかりのJH Audioの「JH 13 Pro」なども候補でしたが、注文時のやり取りをどうするのかといった精神的な障壁も大きく、わずかながらも情報のあったUEに絞ったのを覚えています。

 実は「UE 18 Pro」の注文時には、「できればロゴは無しで」と耳型に同梱したメモに書き添えていたのですが、できなかったようで(笑)、まぁ今回もロゴ無しを指定したら「そんなヤツほとんどいないけどホントにコレで大丈夫?」(意訳)とJH Audioから確認が入ったわけですが、密かな希望だった(買いたい製品での)ロゴなしカスタムIEMが7年越しで実現した次第です。

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