Campfire Audio Jupiter + ALO SXC 8

 
 UE 18 Proを買ったのが2010年7月で、気がついたら5年以上も経過していました。だからというわけではありませんが、しばらくぶりのイヤホンとしてCampfire Audioの「Jupiter」を買ってみました。ケーブルのALOから派生したブランドということもあり、せっかくなのでALOの「SXC 8 Earphone Cable – MMCX – 3.5mm」(2015年4月のマイナーチェンジ前のモデル)も一緒に買って合わせてみました。

 Campfire Audioについては、日本ローンチのかなり前ですが、最終に近いOrionのプロトタイプを試聴する機会があり、BAのシングルドライバーでも幅広い帯域をカバーした、非常に明瞭な音に驚いたという経験がありました。Jupiterは2ウェイ4ドライバーで構成はハイエンド寄りですが、Campfire Audioの目指す音というのがなんとなく見えていたので、具体的な製品が発表されてからも注目していました。
 



■Jupiterの音

 Jupiterの音は、「ウォーム&ブライト&ソリッド」とでもいうべきもので、低・中・高の各帯域に明確なキャラクターが付けられていると思います。2ウェイ4ドライバーという構成、価格帯を考慮しても十分に満足のいくものでした。もっとも、付属のTinselケーブル2本を除くと一回り下の価格帯になりそうで、その意味ではクラスを超えた音質といえるかもしれません。常用してきたUE 18 Pro(4ウェイ6ドライバー)と比べると、素性や方向性の違いから、優っている点、劣っている点がある印象です。

 優れているのは、チューブレス設計の「レゾネーター・アセンブリー」と紹介されている部分からくるものでしょう。中音域が特に明瞭で、ベールを1枚剥いだように、という表現がピタリとくる、シャープで開放的な音です。ここはUE 18 Proと比べて明確に優っていると感じられる部分です。

 高音域もわりと前面に出てくる印象で、金管楽器などを小気味よく、爽快に鳴らしてくれます。ピアノの高い音なども、独特のまろやかな輪郭を失わずに綺麗に響かせてくれます。ただ、高音域のやや金属質な傾向は、前面に出てきて目立ちがちなこともあり、音源によっては少し抑制が効いていないように聞こえる場合があります。

 低音域は中音域のブライトなイメージに隠れがちですが、こちらは深い底から十分に出ており、量感豊かに聴かせてくれます。こちらも、どちらかというと前面に出てくる印象で、プレーヤーとの相性の影響が大きい部分かもしれないので、常用するプレーヤーでの鳴り方を確認したいところです。

 音場は全体として広がりが感じられますが、各音域はそれなりに主張して前面に出てくるので、整然と並んでいるところを俯瞰するような距離感というより、ステージの最前列から身を乗り出しているような印象です。ボリュームに対する飽和はUE 18 Proより少し早く、美味しいボリュームゾーンは狭めかもしれません。レディメイドのIEMとしては普通かもしれませんが。



■ジュピター・ジャズ

 Jupiterは、絵でいうところのコントラストが強めの印象に仕上げられており、プレーヤーや音源、再生環境がここにハマっていない場合、印象が左右されそうです。UE 18 Proは低音域がモリモリというイメージがあるかもしれませんが、アーティストのステージモニターという本来の目的には必要な要素と思われ、実際に大きな騒音環境下では、わりと綺麗にバランスがとれる印象です。そしてUE 18 Proはなんだかんだいっても総体はモニターサウンドとしての特性を備えており、ある意味、行儀の良いバランスで、各帯域が統率されているといえます。

 Jupiterも低音域はしっかり出ているので、電車の中や繁華街の中でも気持よく聴くことができます。その上で、メリハリがしっかりと付いた音は、開発者の“聞かせたい音”が色濃く反映された結果でしょう。2ウェイ4ドライバーという構成は、今となってはそれ自体が注目を集める仕様ではないものの、独自に調整したBAユニットとチューブレス設計という現代ならではの設計の妙で、目の覚めるようなパフォーマンスを発揮し、特徴を作り出すことに成功しています。このあたりは日本語でも公式に紹介されていますが、哲学として掲げる「Less is more」のコンセプトが結実しているように思えます。

 Jupiterで聴いていて楽しいのはジャズです。綺麗に録音されたジャズは、UE 18 ProよりもJupiterのほうが爽快感が強く、打ち鳴らして欲しいシンバルが派手に打ち鳴らされ、刺激の欲しいミュートされたトランペットを刺激的に鳴らしてくれます。欲しいところに欲しい音が来る、そういう快感、爽快さがJupiterの持ち味と言えそうです。

 一方、そもそもが刺激的なバランスで録音されている曲などは、UE 18 Proの懐の深さが活きてくる部分で、Jupiterでは中~高音域を中心にやり過ぎ感が出るかもしれません。

■そのほか

 JupiterはSXC 8と組み合わせ、付属のTinselケーブルは使っていません……すいません(笑)。上記の比較の前に、JupiterとSXC 8は一緒に100時間以上鳴らしています。UE 18 ProはWhiplash Audioの「TWag V3 OM」(銀線)との組み合わせで、大雑把に言うと、UE 18 Proのキャラクターをシャープで繊細な方向に少し振った感じです。プレーヤーは「Calyx M」に増槽&電源強化の「X-batt」を装着したもの(過去の記事)です。インピーダンスはUE 18 Proが22.5Ω、Jupiterが35Ωで、Calyx Mのインピーダンスマッチ設定のMIDとHIGHをまたぐので、(この設定の意義はさておき)一応、それぞれ変更した上で聴いています。

 使用したイヤーチップはフォームタイプで、パッケージに付属のコンプライではない、デフォルトで装着されているものです。遮音性がかなり高く、装着も押しこむだけで、簡単にフィットしました。UE 18 Pro以前は、(私の耳孔の形に起因する)シリコンのイヤーチップの左右のフィット感の違いや遮音性の低さに嫌気が差してカスタムIEMの世界に飛び込んだわけですが、5年の間の進化に驚かされました(笑)。

 Jupiterのボディは私の耳には少し大きいのか、耳に当たる部分は、長時間使うと少し痛みを感じましたが、慣れで大部分は緩和されました。全体の装着感の自然さは、耳型を取ったカスタムIEMであるUE 18 Proと比べるべくもない、と言いたいところですが、そうではない部分もあります。

 それはUE 18 ProなどカスタムIEMでは、導管の先端が外耳(外耳道)のけっこう奥まで到達するという点です。Jupiter(を含む一般的なIEM)のイヤープラグは外耳道の入り口(外耳孔)までです。イヤープラグだとスポンジの耳栓をしたようなもので、入り口に詰めるだけという感覚ですが、カスタムIEMの導管は、耳の奥を“触っている”感覚が残ります。極めて個人的な身体感覚の話ですが、この時々耳の奥を触られる感触により、首筋や肩がいつのまにか緊張し、リラックスできていないことに気付く、ということが(私には)起こります。ステージで歌唱・演奏しているアーティストには関係ないでしょうが、久しぶりにカスタムではないIEMといつの間にか進化していたイヤープラグを常用してみて、気付かされたのでした。