Resonessence Labs CONCERO HP

 Resonessence Labsの「CONCERO HP」を自宅用のDDC/ヘッドホンアンプとして買ってみました。日本では2013年8月の発売なので、今から1年以上前に発売されていることになりますが、ハイレゾ音源の配信フォーマットが、販売レベルにおいてはある程度落ち着いてきたように見受けられるので、現時点でフル対応といって差し支えない「CONCERO HP」を自宅用に導入してみた次第です。「CONCERO HP」に合わせてUSBケーブルもWireworldの赤くて平たい「Starlight 7 USB 2.0」にしてみました。主に組み合わせているヘッドホンはリケーブルした「HD650」です。

 本体は想像よりも小型でしたが、基板の乗った底面以外はアルミの削り出しで、肉厚でズシリとした安定感があります。私はすでに、Resonessence Labsのラインナップでは入門用ともいえる「HERUS」を買って、その音の傾向は気に入っていたので、買う前に「CONCERO HP」に期待していたのは正統的進化(発売時期は逆ですが)といったものです。逆に不安だったのは、「HERUS」が想像以上のパフォーマンスを見せてくれたので、「CONCERO HP」になんとなく満足できなかったらどうしよう……というものでした。

CONCERO HPの音


 その「CONCERO HP」ですが、「HERUS」と比較すると、空間表現やステージの広さみたいなものが、全く違うレベルでした。

 「HERUS」は音像としてのボーカル域を中心に、いわばステージの真ん中にスポットライトがあたっているような印象で、爽快に聴ける一方で、「CONCERO HP」と比較すると、周囲の音は出しゃばらずに、スポットライトの外に出てしまっている感じとも言えます。「CONCERO HP」は周囲に配置されている細かな楽器や音が、スッと立ち上がっており、上の例えならステージ全体にライトがあたり、どの音もいきいきと、同じステージ上で主張している印象です。

 空間表現が広がり、周囲の音が綺麗に持ち上がっているので、ボーカルのハーモニー(ハモり)にハッとさせられることもあります。その他大勢として聞こえていたものが柔らかに解きほぐされて頭の周囲に展開され、縦方向を意識させるようなケースもあります。また、オーケストラの合唱では、合唱隊が横一列で直線に並んでいるかのようにイメージされることもあり、ただ音場を周囲に押し広げただけではない、高いポテンシャルを秘めた空間表現になっていると思います。

 全高調波歪み率やダイナミックレンジをはじめとしたスペックが「HERUS」より一回り優れていることもあってか、「HERUS」でも十分に高かった基本的な解像度やノイズの少なさはさらに高いレベルにあります。「HERUS」では天井にぶつかっていたような音も(録音の良し悪しはさておき)、「CONCERO HP」ならギリギリ破綻させずにうまくカバーするような場合もあります。

S/PDIF

 仕様の面では、自宅の環境などから、じっくり聞くならヘッドホン、BGM的に流すならスピーカーでもOK、という人、つまり私にぴったりでしょう(笑)。「CONCERO HP」はアナログ出力がヘッドホン端子のみ、兄弟機の「CONCERO HD」はアナログ出力がRCAのみとなっていますが、どちらのモデルも、アナログ出力と同時に使えるデジタル出力として、同軸デジタル端子(S/PDIF)を備えています。ファームウェアアップデートのページにS/PDIFに関するもう一つのファイルが置いてあり、それを適用したらS/PDIFから音が出るようになりました。S/PDIFは、USBを電源のみの接続にすれば、入力端子としても利用できます。

 「CONCERO HP」自体はDSD、24bitのPCMの双方をサポートしていますが、DDCとしての利用になるS/PDIF出力は、世の中のほとんどがそうであるように、PCMでの利用が中心になると思います。FLACやWAVなどのPCM音源は普通にS/PDIFから出力できるので、S/PDIFの入力があるほかのDACに接続できます。

 ではDSDを再生するとどうなるかというと、「CONCERO HP」(CONCERO HDも)は、DSD 2.8MHz(DSD64)まではS/PDIF経由で、DoPで出力できると説明書には書かれています。また、技術的制約により、DSD 5.6MHz(DSD128)はS/PDIFから出力できないとも書かれています。ただ、S/PDIFの入力でDSD(DoP)もサポートしているDACはまれ、あるいは超がつく高級機で、私も持っていませんので、「CONCERO HP」のS/PDIF経由でDSDを出力するという動作の確認はできていません。

ボリュームノブ

 「CONCERO HP」の外見で一番特徴的なボリュームノブですが、これは見た目に反して、「CONCERO HP」の本体内部に作用するボリュームではありません。と、マニュアルには記載されています。実態はUSBのHIDデバイスとしてパソコンと接続されるボリュームボタンで、このノブをコリコリと回すと、パソコンのサウンド出力のレベルが操作され、変化するというものです。分かりやすく言うと、ノートパソコンやUSBキーボードによくある、“マルチメディアキー”のボリュームボタンと全く同じ挙動です。ボリュームノブをさわらずに、マウスやキーボードでOSやプレーヤーソフトのボリュームを調整しても同じ結果が得られるので、少なくともUSBで入力して使っている限りにおいて、この本体のボリュームノブはボリューム調整に必須の装置ではありません。

 そのボリュームノブですが、実際に回すと、1クリック感がパソコン(Windows 7)のボリュームの1%に相当します。コリコリっと回すと、25%が27%になるわけです。クリック感は明瞭ですが、フィーリングにオーディオ機器的な高級感があるわけではないので、あくまでパソコンのボリュームを操作するための装置と割り切るのがいいと思います。

アップサンプリング

 このボリュームノブですが、アップサンプリングフィルターのための押しボタンとしての機能もあります。bit深度を問わず、再生している楽曲のサンプリング周波数が44.1kHzまたは48kHzの場合のみ、「CONCERO HP」内部のアップサンプリングフィルターによりそれぞれ176.4kHz、192kHzと、4倍のアップサンプリングが可能です。アップサンプリングフィルターは「IIRフィルター」「アポダイジングフィルター」の2種類から選択できます。

 アップサンプリングフィルターを使用している場合はロゴのLEDが青から紫に切り替わります。また、アップサンプリングフィルターはオン・オフを記憶するので、例えば途中で96kHz以上の曲を再生してアップサンプリングフィルターが解除されても、再び44.1kHzまたは48kHzの曲を再生すると、オンに戻ります。

まとめ

 「CONCERO HP」はUSBの入力でDSD 5.6MHzや24bit 352.8kHzのPCMなどに対応する一方、出力はヘッドホンと同軸デジタルのみと、ラインナップの中核にして、非常に割り切った仕様です。ボリュームノブも、上記にあるように実はパソコン側を操作しているだけと、S/PDIFが無ければ「HERUS」とさほど変わらない状況ですが、空間表現を筆頭に、ダイナミックレンジ、ノイズ除去性能など、さまざまな点で明確に「HERUS」では到達できないレベルを実現しています。発売時期も近いので、開発時期はほぼ同じと考えていいでしょうが、底力やポテンシャルという意味では価格なりの差異化がなされています(あたりまえですが)。

 「CONCERO HP」に搭載されるDACチップは、ESS Technologyが発表した「SABRE-2M DAC」シリーズ(3種類)の最上位モデルである「ES9018-2M」で、「HERUS」には末弟にあたる「ES9010-2M」が搭載されています。ダイナミックレンジをはじめ、地力が違うのはこうしたところにもよるでしょうが、最終製品として、明瞭で爽快といえるような基本的な音の傾向は同じだと思います。

 私にとって「HERUS」はDSDネイティブ再生デビュー(笑)の機種ですし、ハイレゾ環境を整えていく上では、Resonessence Labsの音作りに影響を受けています。また、「ES9018-2M」を搭載するような、USBのバスパワー駆動が可能なResonessence Labsのモデルは、回路を含めてシンプルにして、無駄をそぎ落としていくことで音が磨かれていった、かつてのポータブルオーディオで感心していた部分と重なります。外部との接続という意味で、あれもこれもしたい、楽しみたい、という人には向かないでしょうが、どっしりと座ってハイレゾとはなんぞや? と向き合いたい人にはオススメできると思います。

 ちなみに、仕様の面ではバスパワー駆動なので、ふさわしいかどうかは別として、「HERUS」同様に「USB Audio Player Pro」を使ってスマートフォンで駆動させることも可能です。「HERUS」があることを考えると、ポータブルな利用はそちらに譲りたい気もしますが。