Calyx M

 
 Digital & Analog社のハイレゾ・デジタルオーディオプレーヤー(DAP)「Calyx M」を買ってみました。10月に開催されたフジヤエービックの「秋のヘッドホン祭2014」にて、会場限定特価品として初回限定版(割引価格+革ケース付)が販売され、これをもって日本での販売が開始されたようです。残りがそのまま通信販売でも取り扱われ、イベントの後日ですが、同じ内容で買えました。

 「Calyx M」はDSDのネイティブ再生にも対応したフル対応のプレーヤー(DAP)として注目していたこともあって、2月の(大雪の)「ポタ研」で試聴していましたし、10月末の「秋のヘッドホン祭2014」でも試聴して、けっこう良くなった、というか「ワンストップだしもうこれでいい、いや、これがいい」と音に軽く惚れ込んで買ってみた次第です。

 (換装用大容量バッテリーを装着した「Calyx M with X-batt」の記事はコチラ
 

まず、ここが良い

 普段とは順番を変えて、まずは音から。「秋のヘッドホン祭2014」では自分のmicroSDカードを差し込んで、常用している「UE 18 Pro」とWhiplash Audio「TWag v3 OM」の組み合わせで聞いてみました(買ってからもこの組み合わせは同じです)。この時の第一印象として強く感じたのは、「芳醇」とでも言うべき音、ということです。

 濃密で、音楽的な色鮮やかさがあり、低音域から高音域まで非常に綺麗に “つながっている” 印象で、分析的なドライな感じはありません。しかし解像度で劣るかというと全くそんなことはなく、ノイズの無い綺麗な背景と相まって、深くニュアンスに富んだ重低音から伸びやかで芯の通った高音域まで、美麗な音を積極的に聴かせてくれます。優等生タイプではなく、色濃いイメージです。しかし加飾の傾向が強いわけではなく、アップサンプリングなどの機能もありませんし、メーカーや製作者の意図を加味しながら、素材を活かしきる方向だと思います。そういう意味で、録音のあまりよろしくない音源などは、綺麗に聞こえるとはいえ、それなりに判別できてしまうと思います。

 組み合わせている「UE 18 Pro」は比較的、低音域が得意とあって、フラット寄りのイヤホンやヘッドホンでは、若干、低音域が大人しい印象になるかもしれません。「UE 18 Pro」では、例えば綺麗に録音されたバスドラムなら、一瞬の強い振動から瞬時に減衰していく様まで、腹で感じるようなニュアンスも描いてくれます(笑)。打ち込み系なども楽しく聴かせてくれますが、生演奏系のほうがより “美味しい” ような音の傾向ではないかと思います。

 

 
 良い点、悪い点、どちらでもない(?)点をまとめていきましょう。ファームウェアのバージョンは開封時でVer.0.96でしたが、11月3日時点で最新のバージョンであるVer.1.0に更新しています。以下はすべてファームウェア Ver.1.0で使用した内容です

※2014年11月21日付でVer.1.01の提供が開始されています。以下でも変更点は追記しています。

 

ほかに、ここが良い

 音に関しての良い点は、上記で書いた通りです。記事の最後でも「AK240」との直接比較で言及しています。

ボリュームスライダー: 「Calyx M」の外観の特徴である、右側面にある磁石でくっついたボリュームスライダーは、操作に適度な重さがあり、操作感は上々です。歩きながらポケットの中で操作しても、適度な重さのおかげでいきなりズバッとボリュームを上げすぎてしまう事故は、恐らく少ないでしょう。回転させるタイプのボリュームノブより追加の場所をとらないという意味で、スマートフォンのような形を採用した「Calyx M」には合っていると思います。

ディスプレイ: 画面はサムスン製の4.65インチ、1280×720ドットの有機EL(AMOLED)で、この手のプレーヤーとしてはかなり豪華なものです。「AK240」も有機ELですが、これらはバックライトが不要な分、内部のノイズを抑制できるという面もあるようです。発色やコントラストも非常に綺麗で、音の傾向を体現しているようでもあります。アルバムアートは四隅を丸くしたのが基本で、常時全画面で表示するモードはありませんが(一時的に大きく表示することは可能)、ぜひ高解像度のものを用意したいところです。

ストレージ: 内蔵の64GBに加えて、外部メモリカードはダブルスロット構成で、microSDカードスロットが128GBまで、SDカードスロットは256GBまでサポートされています。最大448GBと大容量にすることが可能で、ハイレゾ音源はファイルサイズも大きいので、現状では大きければ大きいほど有難いですね。

 

ここが悪い

バッテリー駆動時間: 悪い点は、バッテリーの駆動時間に代表される、電源まわりに集約されるでしょう。3100mAhのバッテリーを内蔵していますが、公式アナウンスで連続駆動時間約は5時間とやや短めです。DSDや24bitのFLACなどのハイレゾファイルだけで構成したプレイリストを連続再生すると、概ね4時間前後で限界を迎え、強制的な電源シャットダウンになるようです。バッテリーは残り20%を切るとまず警告ダイアログが画面に出るほか、4~5%以下で強制的なシャットダウンになるようです。

 実現している音や、低消費電力よりも音質に振ったと予想されるハードウェアの構成、対応しているフォーマットを考えれば、駆動時間の短さは致し方ないところかもしれません。今後のファームウェアの更新で少しでも駆動時間が伸びれば有難いところです。

駆動時間比較: 捕捉しておくと、公称5時間というのは、絶対値として短いのは確かですが、今世代の製品として、著しく性能が悪いわけではないと思います。

 “DSDのネイティブ再生が可能なプレーヤー”に絞り、公称値で比較してみると、例えば王者「AK240」は、バッテリー容量が3250mAhで、連続駆動時間はDSD 2.8MHzで約5時間、FLAC 192/24で約9時間、FLAC 44.1/16で約10時間と案内されています。12月上旬発売予定でDSDネイティブ再生対応の「HA-P90SD」は、バッテリー容量が3460mAhで、microSDカードからのDSD 5.6MHzのネイティブ再生が約6時間とされています。

 「AK240」はCPUを分けている効果なのか、FLAC再生なら駆動時間が頭ひとつ抜けていますが、DSDネイティブ再生に限ると、公称値は「Calyx M」5時間、「AK240」5時間、「HA-P90SD」6時間で、バッテリー容量と概ね連動し、驚くほど極端な差はないと言えそうです。「Calyx M」の公称5時間(再生フォーマットは不明)、実測で4時間プラスマイナス30分程度というのは、実用ギリギリのレベルといえますが、最新の日本メーカーの製品や高級機でも、特にDSDのネイティブ再生では再生負荷の高さを十分に克服できていないことが窺えます。このあたりはDSDの処理に絡んだ搭載チップの世代が変わると刷新されるでしょうが、そうなるまでは似たり寄ったりかもしれません。

 個人的には、試聴などで音の良さを体感していたので、駆動時間の短さは最初からあまり問題にしていませんでした。駆動時間が10時間以下なら、自分の運用方法はたいして変わらないってのもありますし、「あぁ、この音で聴けるなら、モバイルバッテリーを予備で持ち歩いてもいいや」と思ったわけです。

 人により重視するポイントは違うでしょうが、USBで充電できますし、会社に出勤したならデスクのパソコンなどで充電しておけばいいわけです。4000mAh程度のモバイルバッテリーなら軽量なモデルもありますし。飛行機で海外に行くとか、“片道4時間以上、ずっと音楽を聴く”というケース以外は対応策をとることが可能……などと、音に惚れ込んだ身としては解決策を考えるわけです(笑)。

充電時間: ちなみに充電時間も、再生しながら充電の場合、フル充電までだいたい4時間ぐらいかかるようで、こちらも電源まわりが課題と指摘する部分のひとつです。3100mAhと、現在のスマートフォンと同等クラスの容量ですが、急速充電のようなものには対応していないようです。

 この電源入力の仕様だと、仮に内蔵バッテリーをさらに大容量にしても、今度は充電時間が5時間超とかになってしまうでしょうし、さらに重量増となると実用性がどんどん犠牲になっていきます。重さ・充電時間の面でも、この製品には3000mAhクラスが最大なのだと思われます。

充電しながら: 上記のように音楽を再生しながら充電できるのですが、この場合、本体が起動してから電源のUSBケーブルを接続する必要があります。電源がオフの状態でケーブルを接続すると、充電専用モードになり、通常の起動はできなくなります。つまり、「充電しながら、電源をオンにして起動する」ということが、仕様上できないことになっています。

 バッテリー残量が(恐らく)5%以下では、起動できてもすぐにシャットダウンの処理に入るため、充電のケーブルを接続するタイミングが分かりません。実質的には、バッテリー残量が5%以上に充電されるまでは、起動および「充電しながら再生」という使い方はできないことになります。 ※もしかすると、起動処理中の特定のタイミングで電源を接続すればOK、とかの可能性はあります。

※【Ver.1.01】充電しながら起動できるようになりました。

重量: 重さと厚さについては、実用の範囲内だと思いますが、本体は約230gと、ズシリとした重さを感じます。Yシャツの胸ポケットにサッとしまうのは避けたい重さと大きさです。厚手のジャケットの内ポケットならOKかもしれません。四隅が丸いのでズボンのポケットを内側から破ることはないでしょうが(笑)、どのポケットに入れるかは迷う感じです。

 大きさについては、厚さ15mmのぶ厚いスマートフォンといった塩梅ですが、悪いことばかりではなく、スマートフォンのアクセサリー販売コーナーに行けば、楽にケースが見つかるという隠れたポイントがあります(笑)。私は店頭で試してみて、ハクバのスマートフォン用・汎用ケース「Ctrl+ タフ スマートフォンケース M」をとりあず買ってみました。内寸は厚さ12mmとありますが、厚さ15mmの「Calyx M」はなんとか入ります。L型プラグなのでフラップも閉まります。側面のゴム素材部分にはゴム足を貼り付けて、ボタンの場所を分かりやすく、押しやすくしてみました。

(外来ノイズへの耐性については、想像しているように比較的外来ノイズに弱いようですが、原因が不明なので詳細な言及は削除しました)

 

 

ちょっとだけ気になる

フェードイン: フェードインやクロスフェードなどに関する設定や機能はありませんが、曲の再生を開始する際や選曲した際に、まれにフェードインで始まる場合があります。内部的にキャッシュしていなかったとか、スリープ明けとか、そういう状態の違いだと想像しています。アルバムやプレイリストを順番に聞いている最中では起こらないようです。

※【Ver.1.01】フェードインしない仕様になりました。起動後やスリープ明けだとフェードインしない代わりに(?)再生開始時に小さなポップノイズが乗りますが、改善が検討されているようです。

DSDの仕様表示: 現在のVer.1.0のファームウェアでは、DSDのファイルが何MHzなのか、確認できません。FLACではメイン画面の「Track info.」ボタンから「解像度」の項目でビット深度とサンプリング周波数を確認できますが、持っているDSFファイルでは「N/A」と表示されます。もちろん再生はできるので、FLACなどと同じように、再生時に曲名などと一緒に表示してほしいですね。

ノイズ: 再生の停止後に5秒前後が経過すると、内部的に簡単なスタンバイ状態になると思われるのですが、本体起動後の待機状態を含めて、このスタンバイらしき状態をまたぐと小さく「ポツッ」というポップノイズのようなノイズが入ります。状況としては、プレーヤーを起動をして最初に曲を再生する時や、一時停止後に5秒程度が経過すると、ポツッと音がします。ブラインド操作ではある意味で内部の状態のシグナルと言えなくもないですが、無い方が好ましいでしょう。

 これとは別に、DSDの再生では曲間で「プッ」という小さなノイズが入ります。私の環境・組み合わせでは、場合によっては聞き逃すレベルですが、DSDはボリュームを通常よりも上げがちになるためか、集中して聴いていると「?」と気が付く感じです。

※【Ver.1.01】DSDのボリュームが上げられ、聴感上はほかの形式と同じボリュームレベルになりました。

バッテリーの残量表示: バッテリー残量は、警告ダイアログでは「●●%」とか表示されますが、通常のメニューなどでは%で表示されず、電池アイコンの増減やその色で判断するしかありません。電池アイコンが赤色なのは残量が警告域という意味だと思いますが、数字でも残量を確認できるようになると有難いところです。

画面の輝度調整: 画面の輝度は、常に最高輝度の設定ようで、美麗なコントラストが常に最大限発揮されている状態です。公式サイトによれば輝度を調整可能とありますが、ファームウェア Ver.1.0では画面輝度を調整する箇所が見当たりません。15秒で画面スリープなどの設定にすれば電力消費へのインパクトは小さいでしょうが、調整できるなら、それにこしたことはないような気がします。もっとも、晴天時の屋外では最高輝度でないと見づらいですから、仮に変更できるようになっても、頻繁に設定するのが面倒で最高輝度のまま、というケースはありそうです。

物理ボタン: 右側面には「戻る」「再生・一時停止」「進む」のボタンがありますが、画面が消灯している状態で再生を停止し、おおよそ20秒以上が経過すると、内部的に一段深いスリープの状態になるようで、側面の「再生・一時停止」ボタンだけでは再生を開始できなくなります。ずっとポケットの中に入れたまま操作するとかの、ブラインド操作で遭遇するケースです。

 例えばどういう場面かというと、コンビニに入る前に(ポケットの中で)再生を一時停止し、買い物を終えて店を出てきて、再びポケットの中で「再生・一時停止」ボタンを押しても、(20秒以上経過しているので)再生が開始されません。どうするかというと、電源ボタンを一度押して画面を点灯した状態にすれば、スリープから復帰するので、その後は側面の「再生・一時停止」ボタンでも再生が開始できるようになります。ちなみに「AK240」でも同じポリシーの挙動です。「再生・一時停止」ボタン一発で再生を開始できるようにしてほしいですが、再生を停止した後の誤操作防止という観点もあるでしょうし、判断が難しいところかもしれません。

 あと欲をいえば、ブラインド操作で便利なように、「再生・一時停止」ボタンには指先の感触だけで分かるポッチが欲しかったですね。

発熱: 放熱に関しては、(充電中ではない)通常の再生中にはそれほど熱を持たないのですが、例えば布団の上に置くなど、著しく放熱を阻害すると、本体背面や側面がぽかぽかしてきます。アルミ製のボディ全体で放熱する設計のようです。ポケットの中で再生していても同様でぽかぽかしてきますが、少なくとも1~2時間程度では熱が原因の不具合は起きないようです。夏は若干心配ですが……。

SDカード: 一度設定すれば関係ありませんが、SDXCカードやmicroSDXCカードではexFATを認識しないようで、NTFSかFAT32でフォーマットすることになると思います。私は128GBの安価なSDXCカードを買ってきましたが、標準になっているexFATでは認識できなかったため、パソコンでNTFSにフォーマットし直して使っています。

 

 

基本的なこと

出力端子: 3.5mmのアンバランスのステレオミニ1系統だけと潔い構成です。ラインアウトもありません。ほかにあるのはUSB DACのための入力だけです。

再生機能: ソフトウェア面でも、アップサンプリング再生や、ほかのフォーマットへのリアルタイム変換再生、イコライザー機能などの音色に絡む付加的な機能はないので、Audiophileらしいストレートな再生で実力の程を楽しむといったところでしょう。

USB DAC: パソコンと接続するUSB DAC機能もオーソドックスな構成で、WindowsではXMOSのドライバをダウンロードしインストールして使います。USB DACモードでは「Calyx M」本体の画面上に3種類のインピーダンス設定が表示され、ヘッドホンなどに合わせてすぐに切り替えられるようになっています。

UI: ユーザーインターフェイスはややゆったりとしていますが、タッチ操作の致命的な取りこぼしや、ガクガクとしたいびつさは抑えられているので、なんとか気にならない程度、といった塩梅でしょうか。モッサリ気味ですが、誤操作が頻発するわけではないと思います。タッチ操作のお作法自体は現代的なもので、特に不満はありません。プレイリストはドラッグ操作で入れ替えられます。ごく一部で長押しやピンチイン・アウト操作もあります。

 ライブラリのメニューに入れ替えできる「フォルダ」表示機能は、楽曲ファイルの入っている最終フォルダを、フォルダ名でソートして、アルバム一覧のようにフォルダをリスト表示するというものです。ディレクトリを自由に移動して探すメニューではありません。WAVファイルなど、タグのないファイルを予めフォルダに入れておけば、フォルダ内の楽曲群が1枚のアルバムように扱われるという機能です。

※【Ver.1.01】ユーザーインターフェイスの動作感が全体的に改善され、モッサリ感が後退しました。

言語表示: ファームウェアのVer.1.0で、メニューなどもほぼすべて日本語化されています。一部が文字数の関係で不格好に改行されているので、漢字を使うとかで工夫してほしいところです(笑)。ライブラリなどでは、漢字を問題なく表示できますが、携帯電話の電話帳のようによみがなのデータはないので、漢字で始まる名称はリスト上で「その他」に分類されます。

 ライブラリを検索する入力フォームでは、デフォルトでAndroidの英語キーボードが表示されますが、スペースバーを長押しすると日本語入力のキーボードに切り替えられます。ただし、Androidスマートフォンのような設定画面があるわけではないので、戻し方が分かりません(笑)。日本語入力のキーボードでもアルファベットは入力できるので、問題はなさそうですが……。

安定性: 再生そのものを含めて、完璧とまではいきませんが、ソフトウェアの根っこの部分の安定性は比較的高いようです。

付属ディスク: 初回限定なのか何なのかわかりませんが、ト音記号のロゴに「Calyx M Sampler」とだけ印字されたディスクが同梱されていました。このディスクを同梱するために、比較的小さな黒い外箱とは別に、ダンボールの外箱を用意したようですね。中身はプレスのDVD-ROMで、「Audiophile Jazz Prologue III」の24bit 192kHz版のAIFFファイル、全13曲、約4.5GB分がまるごと入っていました。当然ながら非常に綺麗に録音されたアルバムで、「Calyx M」のポテンシャルを図る上でも良いリファレンスになると思います。

エージング: 当初の発売予定時期だった夏頃の先行レビューで、ささきさんのところで50時間ぐらいと書かれていたので、そうなのでしょう(笑)。52時間ほど再生したところ、中高音域の眠たさが晴れ、低音域とのつながりが鮮やかになって、ある種の“凄み”のようなものが出てきました。ただ、50時間を超えても良くなった印象があるので、人に教えるなら余裕をみて60~70時間、と言うかもしれません。

 

 

さいごに

 時期的に、ハイレゾで配信されている茅原実里「NEO FANTASIA」や寿美菜子「Tick」を聴いているとあって、「超理想とはいえないが現代的な良録音の域に迫ってきた茅原実里の楽曲をここまで美麗で濃密な音で聴けるなんて……」と有難がっている次第です。

 駆動時間は結果的に短めですが、価格帯を超えるかのような納得の音質と、現在配信されているフォーマットにフル対応という点で、取捨選択が分かりやすいプレーヤーです。ポータブルプレーヤーとしては、メーカーのファーストモデルということもあってか、ハードウェアとして詰めの甘い仕様や挙動も散見されます。駆動時間の優先順位が高いなら、手を出すべきではないしょう。しかし、音質のために、4時間前後の駆動時間をカバーする手段を講じられるのなら、一聴してみる価値は十分にあるように思います。

 

おまけ

 

 
(11月5日追記)

 さる賢者から「AK240」を借りられたので、同じ音源を使って「Calyx M」と聴き比べてみました。今聴きたい風な楽曲で聴き比べましょうということで、持っているハイレゾ音源の中から選抜したのは、豊崎愛生「Love letter」から「music」、寿美菜子「Tick」から「pretty fever」、ai kuwabara trio project(桑原あい)「THE SIXTH SENSE」から「CLOCKLIKE DROPS OF WATER」の3曲です。

 音だけにフォーカスして、価格差を考えずに書き連ねていきますが、両者を比べると一長一短で、一方が全面的に劣っているという感じはしませんでした。

 「AK240」は王者の余裕かデュアルDACのせいか、貫禄があります。空間表現に秀でており、配置される音が整理されていて、多くの場面で音が食い合っていない印象です。ボリューム耐性も強く、音を大きくしても、バランス駆動のようにそれぞれの音の位置関係が崩れにくく、そのまま音が大きくなります。

 「Calyx M」はある程度までボリュームを上げると、それぞれの音がだんだん中心に迫ってきて、やがては音が食い合い、位置関係も破綻します(これが普通ですが)。「AK240」と比較すれば、空間表現はタイト目で、音の配置や整理の仕方は「AK240」に及ばない部分でしょう。

 音の描き方は最も差が出る部分ですが、「AK240」の印象は、素材のバランスを失わずに、優等生的で、「Calyx M」と比較すればややコントラストの低い仕上がりかもしれません。これはネガティブな意味ではなく、より正確であり、ドライではないものの、少し分析的な、一歩引いて俯瞰するような印象があります。コンサート会場の、最も綺麗に聞こえるS席でじっくりと味わうイメージでしょうか(笑)。低域の沈み込み、高域の伸びももちろん非常に綺麗ですが、全体として見事な音色のバランス感覚が貫かれています。

 「Calyx M」の音色は、総じて弾けた印象で、冒頭で「コントラストが高い」「色濃い」などと表現した印象が、「AK240」と比較してなお残る感想です。先ほどの例なら、ライブ会場の最前列で音を全身に浴びたいイメージかもしれません。写真でいうなら、ダイナミックな絵で、ところどころに黒つぶれしている場所があっても、全体の絵にはマイナスにはなっていない感じでしょう。中高音域では「AK240」よりもすこし荒削りな、芯と伸びがある印象で、重低音の音域も、際の部分で少し取捨選択してよりディテールを描き込む積極性が感じられます。音色のバランス感覚は素材にまかせて、できることはすべてやるといった感じです。

 「AK240」の持つ見事な音色のバランス感覚や全方位の網羅性を、その正確さから人工的、というと語弊がありますが、対する「Calyx M」は、やんちゃさを感じさせる音色のバランス感覚で、前向きに音色の取捨選択を行うキャラクター、ということになるでしょうか。

 さて、価格差を考えると……コッチを買え! という言及は怖くてできませんが(笑)、「AK240」が全方位でレベルが高い印象ですし、半額以下の「Calyx M」でも、全面的に劣っているとは言えない、というのが、正直な感想です。むしろ「Calyx M」は、10万円前後のDAPとしてはトップクラスと言っても差し支えないでしょう。両者の音の比較で焦点になる音色は、バランス感覚の違いもあり、先に書いたように一長一短というのが “個人的な” 結論です。空間や整理の仕方は「AK240」が勝りますし、音以外に目を向けると、ハードウェアの完成度については、画面の綺麗さ以外は「Calyx M」が全面敗訴、上告は棄却でしょう(笑)。「Calyx M」はやはり、いろいろな意味で取捨選択が求められるというのは間違いないようですが、今のところ仕様や使い勝手でイライラすることはあまりないので(※個人の感想です)、じっくりと楽しめそうです。