Oh! SID!!

 
 コモドール64のサウンドチップであるSIDを使った「SIDチューン」の楽曲シーンは、質・量ともに興味深く、いくつかの曲をピックアップしてよく聞いているのですが、プレーヤーソフトを探しなおすついでに簡単にまとめてみました。ハイファイではなくローファイなおはなしです。

■SIDファイルの入手
 
 8bit世代のホビーパソコンであるコモドール64のサウンドチップ、SIDの音は、耳馴染みのあるファミコンの音と比べると少々豪華で、独特のまるっとした、厚みのある味わい深い音色が特徴です。SIDのチップチューンは、ほかのプラットフォーム、例えばファミコンの内蔵音源を使うNSFファイルや、MIDIファイルなどと同様で、楽譜に相当するsidファイルを用意し、SIDチップの音源エミュレーターソフトに読み込ませて再生する(演奏させる)のが基本的な流れです。このため、sidファイル自体は小さな容量のファイルです。リアルなSIDチップを搭載した「HardSID」などを用いて演奏する方法もありますが、それはまた別のはなし。

 SIDチューンのシーンがほかのプラットフォームと大きく異なり、特異な存在となっているのは、SIDチューンのアーカイブサイト「HVSC」(High Voltage SID Collection)の存在でしょう。SIDの楽曲を制作する作者や楽曲などの情報が整備され、登録された楽曲はアーカイブとして配布されています。楽曲数は2009年末にまとめられた#52で3万7801曲と膨大な規模になっています。

 HVSCだけでなく、ほかのサイトでもコンペなどが定期的に開催されており、ヨーロッパを中心に今なおシーンは動き続けているようです。コモドール64で発売されたゲームのサウンドトラックとして制作された楽曲もありますが、多くはオリジナル楽曲やカバー楽曲、つまり曲そのものを目的として制作されています。懐の深いSIDの音源やフィルターに加え、最近では技巧も一段と成熟し、2000年代に入ると従来にはない音色の楽曲も見受けられるなど、いまだ研鑽が続いている様子がうかがえます。

 SIDファイルは単体でも配布されていますが、HVSCで配布されているものを入手するのが手っ取り早いでしょう。HVSC #52ではすべての楽曲が収録されたコンプリート版で73MBとなっています。

 
■SIDプレーヤー

 SIDファイルが用意できたらプレーヤーソフトですが、SIDの再生には大きく分けて2種類の方法があります。一般的なプレーヤーであるWinAmpやfoobarなどのソフトにプラグインを追加し、再生できるようにするパターンと、SID再生専用ソフトを利用するパターンです。私は普段foobarを使っていますが、SID再生プラグインのバージョンが古く、うまく再生できないのと、後述するリストでの使い勝手の問題もあり、SIDでは専用ソフトを使っています。専用ソフトでは大抵の場合、ダウンロードしたHVSCのフォルダを指定する項目がどこかにあるので、その設定だけは最初に済ませておきます。

 SID再生専用ソフトはHVSCのサイトでも紹介されていますが、Sidplay2.5が最もシンプルな再生ソフトでしょう。単発で楽曲を聞くだけならこれで問題ないと思います。しかし、お気に入りの曲が出てくると、リスト再生機能を重視したくなります。

 


Sidplay2.5

 

 ここで問題となるのは、曲の長さの指定です。NSFなどでも同様ですが、内蔵音源エミュレーターに楽譜を読ませ、再生毎に演算で音を出しているわけで、曲の長さを別途指定しないと、再生が終わっても次の曲に行かないか、ループを続ける場合がほとんどです。多くのSID再生専用ソフトではデフォルト設定として1曲の再生時間を指定できますが、すべての曲に当てはめるのはちょっと強引です。曲の長さは Songlengths.txt というSIDファイルとは別のファイルで存在しており、HVSCアーカイブの指定された場所に収録されています。このテキストには長さ指定のある曲すべてが記載されています。SID再生専用ソフトにこれを読む機能があれば、制作者が指定した長さで再生できるのです。また、曲長とは関係ないですが、楽曲に関する特記事項をテキストでまとめたSTILというファイルもあり、これもSID再生専用ソフトでは専用に表示するウィンドウなどがあったりします。

 Sidplay2.5はシンプルですがやや古風で、曲を探すディレクトリ探索ウィンドウがFTPクライアントのようで少々使いづらいですね。リスト作成時、曲毎に曲長を指定する方式で、Songlengths.txtを反映できないようなので、常用プレーヤーからは除外しています。foobarなどのプラグイン型も同様の理由でリスト再生に難が出てきます。

 私はしばらく、Sidtoolというソフトを使っていました。これは再生自体はSidplay2を使いつつ、リスト再生など周辺を強化したソフトです。しかし我が家では動きが重めで、些細な挙動や表示崩れにびみょーになじめていなかったこともあり、改めてSID再生専用ソフトを探し直し、今回はJavaで制作された「JSIDPlay2」を試してみました。Java実行環境がインストールされていれば単体で起動させられるほか、ブラウザ上で起動させることも可能です。基本はCUIのソフトですが、GUIが用意されているので一般的なプレーヤーソフトとして扱えます。ほかには、主にアタリのコンピュータの楽曲再生に対応し、SIDファイルもサポートした「Jam」などもあります。

 
■Java SIDPlay2

 JSIDPlay2はかなり多機能で、コンソール画面に加えてコモドール BASICの画面なども用意されており、SID再生だけにとどまらないコモドール64の総合エミュレーターとして制作されているようですが、ぶっちゃけそっちはよく分からないので(笑)、SID再生部分だけにフォーカスします。

 JSIDPlay2のサイト、「Live Demo (Beta with Graphical User Interface)」と書かれた項目の3番目、「Click here to launch and install」からリンクされている http://jsidplay2.sourceforge.net/jsidplay2.jnlp にアクセスすると、GUIを含んだJava SIDPlay2をダウンロードしてインストールできるようになると思います。

 起動毎にソフト作者の子供と思わしきスパゲッティをたらしている外国人の子供がスプラッシュ表示されるのはこの際黙っておくとして、メイン画面はボタンとタブが一画面に並び、騒然とした画面構成ですが、必要なタブは限られてきます。

 


JSIDPlay2

 

 まずは「HVSC」のタブで、最下部のディレクトリ指定にてHVSCアーカイブを置いた場所を指定します。そうすると、ツリー型のディレクトリ指定が可能になります。HVSCはSIDチューンの作者名順にフォルダ分けがされているので、そこから作者のフォルダを開くと、SIDファイルがズラッと表示され、目的のSIDファイルをダブルクリックすると再生が始まります。STILの情報がある曲は「A=」みたいなアイコンが付いており、STILのタブで内容を確認できます。HVSCタブで再生中、気に入った曲があれば、右クリックで「Favorites」を指定すればお気に入りとしてリストに登録できます。

 「Favorites」は別タブになっており、曲長を反映させた再生を行えます。下部でランダム再生などの指定もできます。曲を追加したら、忘れずに「Save」をクリックして保存しておきます。「Save…」ではセーブファイルを別名で保存できます。ひとつのSIDファイルの中に複数の曲が収録されている場合は、ウィンドウ上部の「Load Tune」で現在の曲を確認でき、「Previous Song」「Next Song」で1SIDファイルの中の曲の選択が行えます。一般的な利用で使うのはこのあたりでしょうか。

 
■SIDチューン

 SIDのシーンにドップリとつかっていたり、定期的にポッドキャストやストリーミングラジオで情報を集めていたりしないと、どの曲を聞けばいいのかなんて分かりません。デモ用の楽曲も含まれているとはいえ、3万7000曲以上のアーカイブの中から探すのは大変です。

 ストリーミングラジオの「kohina」ではSIDチューンを多数流しているので、どんな雰囲気なのか知りたいのならおすすめです。基本はOGGでの配信ですが、ブラウザ上でも再生できます。すでに10年近く愛聴しており、気になるSIDの曲がかかると曲名をメモし、後からHVSCの中で探すということを繰り返しています……。

 ポッドキャストでは「8Bit Mayhem C64 Scene Podcast」がクリティカルですが、現在の更新は不定期です。8Bit Mayhemではやや難解な曲も多いのですが、おすすめは「Episode #8 – Special Birthday Episode – Jeroen Tel in the mix!」でしょうか。SIDのシーンでも有名と思われるJeroen Tel氏が自身の楽曲をフロア向けにミックスしたライブバージョンで、厳密なチップチューンではないものの、彼の代表曲が一堂に会したハイテンションなリミックスになっています。

 
 チップチューンの醍醐味は、打ち込み楽曲ならではの奇抜さに加え、機械的でシンプルな音色であっても、チューニングによって魂を吹き込まれたかのように躍動的になるところではないでしょうか。少ない音数を駆使するアイデアも見逃せません。制約を受け入れてなお輝きを失わないこれらの楽曲は、ノスタルジーを超えた不思議な魅力に彩られていると思います。

 さて、私もいくつかおすすめとしてピックアップしたいと思います。個人的な好みから、なるべく1曲がしっかりと構成されているものを選んでみたつもりです。上記のHVSCのアーカイブで、作者のフォルダを開けば入っています。
 

・Zardax - Suerya - 03:04 (1996) → MP3
・Zardax - Flashbacks - 03:01 (1992)
・PRI - Soundwave - 04:37 (1993)
・PRI - Multirock - 04:42 (1993)
・Jeroen Tel - Alternative Fuel- 02:35 (2004)
・Jeroen Tel - RoboCop 3 - 03:56 (1992)
・Jammer - Level - 03:05 (2004) → MP3
・Jammer - Water Is Fun - 02:37 (2005)
・Jammer - Hot Mommas - 03:01 (2007)